第3回 『2000年つんく帝国全盛期』


天才つんくのプッチモニ大躍進

 プッチモニのデビューシングル『ちょこっとLOVE』がミリオンセラーを記録したらしい。

 プッチモニとはご存知の通り、つんくプロデュースのモーニング娘。からデビューした保田圭、後藤真希、市井紗耶香の3名で結成されたユニットで、「プチモーニング娘。」を縮めて「ッ」を入れたというネーミングだそうである。

 この曲はモーニング娘。本体の『LOVEマシーン』の勢いをそのまま受け継ぐような形でオリコン1位を獲得し、3週間であっさり50万枚を売り上げてしまった。そして、ここへきて100万枚突破とその勢いはとどまるところを知らない。

 曲は非常にアップテンポで軽快、聞く人の気持ちを楽しくしてくれるような作りで、さすがに天才つんくと言わせるような作品となっている。

 モーニング娘。からは中澤裕子が演歌デビューし、続いて石黒彩、飯田香織、矢口真理がタンポポというユニットでデビューしており、写真集が発売されソロデビューが最後の切り札といわれている安倍なつみを除く、いわゆる残り物3人のユニットデビューということであったが、これが見事に当たった。

 冷静に考えてみると、後藤真希が加入する時の最終審査でつんくはバランスのようなものを懸命に考えていた。今になって思えばこれはモーニング娘。本体のバランスだけではなく、プッチモニのユニットにおけるバランスを考えてのことだったのかも知れない。

 この曲を歴史に照らし合わせてみると、恐らくいちばん近いのはおニャン子クラブからの企画ものユニット、ニャンギラス(樹原亜紀/名越美香/立見里歌/白石麻子)ではないだろうか。もっともニャンギラスには強烈なキャラクターを持った立見里歌がいたり、全員歌が下手だったりする点がプッチモニと大きく違う点だが、このような曲を歌うユニットは乙女塾にもチェキッ娘にも見当たらない。

 プッチモニは最初からこんなに売れてしまうと第二弾が少し心配になるが、つんくは今後もこの系統の曲で攻めていくことはおそらく間違いないだろう。

モーニング娘。4度目のリスタート

 そんなヒットが騒がれ始めたときにモーニング娘。の石黒彩が脱退するというニュースが駆け巡った。私は彼女たちのファンではないので「また脱退か」という割と冷めた目で見ていたが、今となってはその脱退理由がデザインの勉強のためだったのか、結婚のためだったのか定かではない。

 しかし、それはモーニング娘。にとってはあまり大きなことではなかったらしい。先日発売された『恋のダンスサイト』が何と売り上げ初日でミリオンセラーを記録したのである。

 今回の曲は『LOVEマシーン』の大ヒットに味をしめたつんくがその延長線上で、かつそれを進化させたような曲になっている。曲自体は昔流行った『ジンギスカン』という曲のパクリとも思えるような作りであり、メロディラインは中近東風。踊りは正直なところ「こんなのが流行ったら日本の文化がおかしくなってしまうのではないか」と思わせるような派手かつ大胆なものとなっている。

 個人的にこの曲は前作より早く飽きられてしまうような気がするのだが、それ以上にこの曲が仮にヒットをしてもモーニング娘。のいわゆる芸風みたいなものが狭くなってしまうような気がしてならない。さすがにこういうヒットをしてしまうと、例えは悪いがグラビアアイドルがヘアヌード写真集を出してしまったのと同じで、それ以上のことができない上に、それ以前のことに戻ることすらできなくなってしまうのである。

 しかし、私はそのシングルの発売当日に地元のCD店で、ある光景を目にした。父親に連れられた5歳くらいの女の子が、この曲が並んでいるところに向かって「あ〜、あった〜」と嬉しそうに駆け寄ってきてそれを手に取ったのである。父親も特にそれについて「そんなの買うのやめなさい」という素振りもない。まあこんな曲をこんな少女に聞かせて良いのかという問題は別にして、この光景には私自身少し驚いた。それは単なるアイドルの曲ではこういうことは考えられないからである。まさに社会現象を巻き起こしているという裏づけがここにあったような感じがした。

 そして、モーニング娘。は次から3人増員なのだそうである。「5+3−1+1−1+3」だんだんその数式は複雑になっていく・・・

全盛期を迎えたつんく帝国、大成功のポイント

 最初は単なるオーディションの負け組みを真剣勝負でデビューさせるというストーリーから始まったつんくプロデュースのアーティストも今やモーニング娘。を核に16人という大所帯になってしまった。

 そして前述のようにその勢いはとどまるところを知らない。ではなぜつんく帝国はこのような成功を収めたのだろうか。それについて少し考えてみたい。

 つんくがこれだけのヒットを飛ばし続けられる理由については「彼はボーカルなのでその能力を発掘するセンスが抜群だから」とか「彼自身が売れない経験をしているから売れるコツを知っているからだ」などと言われる。私ももちろんそう思うが、もう一歩踏み込んでみると別の視点からその大成功のポイントが見えてくるように思う。

 聞くところによると、つんくはおニャン子クラブのファンだったそうである。しかし、つんくは同じアイドルであるにも関わらず自分のプロデュースするグループにはこれと同じことをしなかった。端的に言えばこれがつんくの大成功のポイントなのである。あまりにも単純な答えだったので戸惑われるかもしれないが、おそらくポイントはこれ以外にないと思う。

 これまでつんくのしてきたことはほとんどが意外性の連続だった。「オーディションの負け組みを集めて、インディーズCD5万枚を完売しないとデビューを認めない」とか「オリコン5位以内に入らないと即解散」とか「メンバーを他のユニットメンバーの地方キャンペーンにスタッフとして同行させる」とか「寺で地獄の合宿をさせる」とか「自分を壊さないと歌えないような曲を大ヒットさせる」とか、とにかく今までにないことをし続けてきたことがつんく帝国大成功のポイントだったのである。

 おニャン子クラブが社会現象とまでいわれるようなブームを巻き起こしたのは、単純に「普通の女の子を集めて、夕方の時間帯に毎日生放送する」というコンセプトが当時では前例がなかったからだと思う。その証拠にその二番煎じではじまった乙女塾はそこそこ売れたがおニャン子ブーム再来にはならなかったし、テレビ朝日の桜っ子クラブ、フジテレビのうらりんギャル、そしておニャン子をそっくりマネたチェキッ娘は惨たんたる結果に終わってしまった。とにかく何のアイデアもなく何かのマネをするということで成功することはほとんどあり得ないことなのである。

 チェキッ娘の場合を例えて言うなら、10年近く放ってあった錆びついた線路の上に旧型の汽車を走らせてしまったようなもので、確かにそれは私のような古き良き時代を大切にする元おニャン子クラブファンや乙女塾ファンの気持ちはとらえることができたが、新しいファンの獲得には苦戦した。しかし、つんくは今までに見たこともないような奇抜な車両をもってして、自ら新しい線路を敷いていくことで、多くのファンを獲得することができたのである。

 そして、今後誰か別の人が同じようなことをしようとしても、決してつんくのような成功を得ることはできないはずであることは、皆さんでもだいたい想像することができると思う。

 モーニング娘。が3人増員するとこれでつんく帝国は総勢19人・・・これは皮肉なことにチェキッ娘と同じ人数である。

vs 小室ファミリー

 さて、このつんく帝国と番組的にも比較されるのが天下の小室ファミリーである。「小室ファミリー」という言葉自体はすでに死語になりつつあるが、小室氏がプロデュースするアーティストのヒットぶりはまだまだ健在である。

 小室氏もつんくと同様に新しい車両で新しい線路を敷いていくタイプのプロデューサーである。現在の打ち込み系の音楽やリミックスという手法は小室氏が先駆者であるし、私の思い違いでなければ「マキシシングル」という形態も小室氏の仕掛けによるもののはずである。

 そんな小室氏だが必ずしもすべてがうまくいっているわけではない。小室氏のプロデュースで数多くのアーティストが世に出はしたが、結果の出なかった人も多いし、一時期だけのブームで終わった人も多くいる。ただ、小室氏がうまいのは、だいたいどの時期をとっても3系列のアーティストが何らかの形でヒットをしているということである。

 また、小室氏は常に挑戦を続けている。小室氏が今必死で戦略をかけているのが、世界中のCDを巨額の投資によってかき集めたデータベースによって「今いちばん流行る可能性がある」とはじき出されたR&Bというジャンルである。この挑戦は必ずしもまだ当たっているとは言えないが、自らTrue Kiss Destinationを作ったと思えば、安室奈美恵や鈴木あみに立て続けにR&Bを歌わせる徹底ぶりをみせたりする。

 この戦略の不振からか、小室氏は最後の切り札とも言えるTMネットワークを復活させた。これも往年の勢いにはならず結果はイマイチといった感じであるが、こんな時でも小室氏は決してポイントを外さない。先週発売された鈴木あみの新曲『Don't need to say good bye』などを聞いていると、そのサウンドが心の奥に深く響いてくる。これを色のイメージで例えると、つんくプロデュースの楽曲は非常に濃い色がつくのに対して、小室氏プロデュースの楽曲は透明感のある色で仕上がってくる。この小室サウンドの奥の深さが、時代やタイミングを選ばない永続的なヒットを続けている理由なのではないかと思う。

 小室ファミリーの永続的なヒットに比べると、つんく帝国のヒットはまだまだ砂の上の城であり、ブームの域を超えていないように思える。これが一時期のブームで終わってしまうのか、世界に名を残すプロデューサーになれるのか、それはつんく自身にかかっているだろう。

つんく帝国の2000年

 今、まさに全盛期を迎えたつんく帝国であるが、2000年にはまたいろいろなことを考えているようである。

 まず3月に現在のモーニング娘。、太陽とシスコムーン、ココナッツ娘。の3ユニット計16人をシャッフルして新たに5人、7人、4人の3ユニットを新たに結成させてシングルを同時発売させる。これは「春にお祭り騒ぎをしたい」というつんくのビジョンに基づくものである。またそれと平行してモーニング娘。も3名増員されて10人になる。

 果たしてその後に一体どんなことが待ち受けているのだろうか?個人的にはチェキッ娘の時のような「応援する楽しさ」みたいなものはつんくプロデュースのアーティストには全く感じないが、「次にどんなことをしてくるのだろうか」という点ではとても面白く見させてもらっている。突拍子もないことをし続けてきたたつんくでも、まだまだアイデアは尽きていないようである。


 どこまでも続いていく線路の向こうに見えるものは、果たして・・・


 以上、きまぐれコラム第3回でした。

2000年1月31日 BATCH



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