このような駄文を読もうと覗いてみてくださり有難うございます。

詳しいキャラ紹介の代わりにという感じで投稿させていただきました。

持ちキャラ「Mr.D-J」がラグオルに行く発端を題材とした物です。

お暇がお有りでしたらどうぞお読みください。そして読み終えてよろしければ感想を頂けると嬉しいです(^^)

それでは、稚拙な文章ですがよろしくお願いいたします。

書いた人:トリックスターより。

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『Departure:〜ある男がアフロに成った経緯〜』

 

 

この正方形の空間にあるのは今更確認することでもなく、無音と淀んだ暗闇を儚く照らす小さな電灯。

揺れる光。細やかな粒子。

それを内包するかのように蟠る圧倒的な静けさと黒さがここには満ちている。

他にあるとすればご丁寧に特殊合金で出来た拘束具を着けられた自分の腕。

あの頃よりもずっと頼りなく思える、細くなった腕。

定時になれば出される味気ない栄養調整されたモノメイトとコップ一杯の生温い水。そして時々やってくる人を蔑んだ光を映す瞳の監視。

こちらが何も出来ないからと隔離扉の覗き窓越しに厭らしい声で自分の憂さを晴らす、聞きたくも無い言葉を並び立てる。

そのあとにまた同じ糞疎ましい声で笑いながらそこを去る。本当なら殺気の一つくらい起つってもんだ。

だが、それがここじゃ全てだ。それが時間を忘れるほど…数年過ぎればどんな事だってどうだって良くなる。

独房での生活なんてそんなものだろう。そう思うしかないのだからそれが正解だ。

感情を表すのが馬鹿らしくなる。時々そんな自分を薄く笑うことくらいだ。

この酷く可笑しげに老廃しても鋭さを失わない眼が捕らえることの出来るものは狂うほど見飽きた壁以外何も無い。

そして今日も変化の無い、停滞していると思える時間がこっちの気も考えず進んでいく…

 

―――そのはずだった。だが、俺の中の時間は突然動き出した。こっちの気も考えずに。

 

「よぉ…元気だったかい…久しぶりだな。」

直角と平面しかないこの空間に響いた、監視以外の久々の声には聞き覚えがあった。

勿論、覗き窓から見えるサングラス…それにも見覚えがあった。

手に拘束具をつけられた俺はその目を見ながらここ数年、最も大きい声量で呟いた。

「…ああ…確かに…何年ぶりだ…」

口調に張りは無く、声のトーンも低い。だが確かにそれは忘れかけていた感情の表し方を思い出させた言葉だった。

隔離扉が開く…廊下の明るい電灯が独房内の弱い明かりを飲み込むように差し込んでくる。眩しい光だ。

数秒後、光に馴染んだ瞳が捉えたのは背広姿の男一人…だが、服の上からでもその肢体が戦闘によって作り上げられたものだと見る者が見れば解る。

サングラスを掛けた背広の男は浅く唇を無機質な微笑みに換え、そのあとそれを言葉のために歪ませた。

「さぁな・・・10年は経たないだろう、多分。だがお互いに血気盛んな時期だった…あの頃の一秒の重さを考えれば本当に、久しぶりだ。」

拘束具を着けられている俺は嘲笑を思い出し、それを浮かべて言葉を返した。

「ああ…あの頃、俺の横で“ブレイド・ダンサー”と呼ばれていたお前の背広姿を拝むことになるとは、夢にも思わないことだったよ。」

背広の男も同じ顔を浮かべ

「ああ、そっちの家業からは足を洗ってな。お前さんこそ…随分とシェイプアップしたな。特に腕と足…見る影も無い。」

再会を懐かしむ言葉かどうかは不明だが互いに交わした言葉の後は同じ表情を浮かべる。笑った顔だ。

「お前もここに同じ時間いればすぐにダイエットできるぞ…何のようだ、アーミテジ。」

俺がアーミテジと呼んだ男は前半を無視して声を低く落としながら言った。

それがここに来た理由だと言わんばかりに。

「ここから出してやる。そしてお前さんに…“二枚の最強札”に依頼だ。引き受けな…選択肢なんてないぜ。」

強引な言葉に苦笑気味の顔が思わず形作られた俺は立ち上がり、薄暗いこの独房に別れを告げることも無く背広の男と共に出て行った。

 

 

 

拘束具を外された手でまずしたことは培養物の焼肉定食を食らうことだった。

施設内の食堂で、使い方を何とか憶えていたチョップスティックで掴んだたっぷりと濃いたれのついたそいつは全身に味覚という感覚の素晴らしさを十分に思い出させてくれた。

黄色人種である自分には有り難い炊き立てのライスも堪能した。

その後は風呂だ。狭い湯船。けれど暖かで純粋なお湯に満たされている。

ボディケアはしていたが風呂に入る行為は間違い無く極楽と形容できるほどだった。

そして、その後は…ともかく、短い間に一頻りのやりたいことを済ませた後に俺にとって久しぶりになるタバコを

お互いに吸いながら、アーミテジはこう言った。

“お前さんはその筋じゃあ有名だった。お前も依頼中に素性が割れるのは利益にならないだろう。少しばかり雰囲気を変えてもらうぞ。”

こちらの意思も問わずにアーミテジは俺にゆっくりとタバコを吸わせる暇なくニューマンのヘアドレッサーの元に連れて行った。

そのヘアドレッサーを見た瞬間、嫌な予感はした。

なんてったってそいつの髪型はとんでもなく前衛的で…形容するならきっと“天地創造”だろう。

とんでもなくクリエイティブ。ハイドンもビックリ。

腕は確かというが…鏡も無い部屋で俺の伸びきった髪をどうにかし始めた。

「…アーミテジ、何故俺なんだ。テクニック能力は奪われ、投薬と外科手術でハンターとしての能力はもう他の奴等に比べて劣っているだろう。」

暫く立ってアーミテジは何本目かのタバコを吸いつつ、彼は問いに応えた。

「確かにアンタがヘマを踏んでブタ箱に突っ込まれたがあの頃のお前さんは独り立ちした俺にとっても、裏社会の奴等にとっても“二枚の万能札”だったさ。」

ヘアドレッサーは陽気に調子外れ鼻歌を歌いながら色々な作業をその指でこなしていく。

とてもじゃないが髪を切っているように思えない。

何らかの液体を髪に染み込ませているようだが…どういう状況なのかと良く解らない。

「バックグラウンド・ハンター<裏のハンター>でも腕利きだったアンタの勘と経験を買ってるんだ。実力は…自分で何とかしてもらうさ。」

バックグラウンド・ハンター…辞書に載ってないであろう言葉。

その言葉は富を得るか、血を差し出すかの世界で息づく言語(ラングレッジ)。

つまりは、そう…一種の淵(エッジ)。それすなわち生きるという行為におけるその鋭い先端(エッジ)

ギルドを通した正規の依頼ではなく社会の裏で蠢くやり取りを請け負う…文字通り、“闇の狩人”だ。

ダサイ言い方だがそれが一番シックリくる。

そこで自分は確かに上り詰めていた。目の前に立ちはだかる同業者やら“その筋の人々”を千切っては投げた。

表現通り“千切っては投げた(リップ アンド スローイング)”。

間違い無くその表現が似合うんだ。

あの世界じゃあ綺麗なものを死にさえ望んでいられないだから。

そして何時の間にかお偉方…業界用語で「黒幕<クロマク>」の方々…は勝手にこう呼んだ。

二枚の万能札。つまり“二枚の最強札<ダブル・ジョーカー>”と。

由来は俺がいつも着けていたトランプのジョーカーの絵柄が彫られた二枚のドックタグらしい。

ジョーカーを二枚もっていればどんな事態<ゲーム>だって上手くいくというわけだ。

けど、そんな俺でも最後はあっけない終りだった…あの“黒い猟犬”が噛み付いてくるとは夢にも思わない。

結局勝敗はつかなかったがあの施設の倒壊から逃げ遅れた俺は独房へと連れて行かれた。

そして停滞は今日が来るまで続いた。

「アーミテジ…俺はこの依頼、はっきり受けると言ってないはずだ。移民船に乗れとしか説明されない依頼なんて…」

白く清潔な…ヘアドレッサー用の様々な道具の詰まれたワゴン以外に自分の座っている硬い椅子しか無い部屋。

そこに響く自分の声と語意はとてもじゃないが現実味を帯びていなかった。

本当にそれだけしか伝えられていない。そのくせ報酬は裏での相場と来ている。逆を返せばあちらで何が起こるか不確定なのかもしれない。

だが、アーミテジはこう答えた。代理人(エージェント)として驚くほど不似合いな質問形の言葉で。

「なるほど…じゃあ、依頼で乗船するパイオニア2には“豪刀のゾーク”、ラグオルのパイオニア1にはレッドリング・リコがいるとしたら。」

俺がニューマンのヘアドレッサーに何か頭に被されながらアーミテジの言葉を聞いていた。

懐かしい名前だ。裏とは言えハンターズであるならばどちらも良く知る名前だ。

有名人。そして間違い無く一流の奴等。

それは会えば解るというものだ。ゾークとは一度、依頼で。リコとは少しだが面識がある…確かに、間違いは無かった。

奴等は違うんだ。

何が違うかなんて説明できるもんじゃないが解りやすく言えば才能と環境が整っている彼らはそれでも、尚未知なるものへ対しての探究心や決して自らを奢らない意志を持っているということ。

その上恐ろしいことに彼らは良く知っているのだ。

“人が行き着く範囲とそれを超えた場所への道筋”を…そう、きっと。

アーミテジは肺に溜まったタバコの煙を吐き出し、言葉を続けた。

「そして“黒い猟犬”…奴も、乗る…ラグオルには奴が追う…お前も追っている“アイツ”がいる…それでもお前さんは行かないというのかい?」

俺はその話を聴いても暫く黙っていた。

その間、ヘアドレッサーのニューマンが頭に被せた機械が唸りを上げている。

思考が落ち着かない機械音だがこの依頼を受けるか否か、そいつはすでに決まっていた。

「…いいだろう、依頼を受けてやる。」

小さな呟きだが他に言葉と受け取れる音はヘアドレッサーの鼻歌以外には無い、それで十分聞こえる。

アーミテジは満足そうに、タバコを携帯灰皿に押し込めて言う

「そうか。お前さんならそう言うと思っていたさ。」

俺は聞いた。どうしても消えない疑問だ。

「最後に答えろよ。なんでお前が行かない…お前だって一流のハンターだろう。」

少なくとも俺はこいつがそうである事を認める。相棒として背中を預けるに至った数少ない人物だ。

その質問にアーミテジはまず左腕を見せる。

長い袖の背広に隠れた腕…肩にかけての筋肉はあの頃と同じで手には厚手の手袋が被せてある。

それを見せて、ゆっくりとその手袋を取る。

そこに在るのは銀の手と指先があった。

「…俺もヘマしちまってな。肘からこんな感じだ…中々カッコいいだろ。金属疲労の問題で長時間の力仕事には向かないがな。」

有機体ではない鋼の掌が器用に動き、生の手と何ら変わりなく動いている。

アンドロイド技術がもたらした外骨格・精密制御技術とニューマン生成のバイオテクノロジーで培われた神経結合技術の賜物だろう。

「…培養再生しなかったのか…いや、なんでもない…ああ、イカした手だとも。」

聞くことじゃない。正式(ノーブル)な個人IDを与えられていない「出生不明」である捨て子の細胞が医療バンクに登録されているわけが無い。

その場合は待たなければならない…現在の細胞から培養し、自分の身体に合う腕に成長させるまで。

それは決して短期間で出来る事ではない。

アーミテジは笑いながら言った。笑いながら。

「ああ、鋭利な刃を持ってダンスは上手く踊れないがな…それに、代理人のほうがリスク無く金が稼げることに気付いたんだよ」

戦士であることを辞めた男の声は陽気だった。

だが、その身体は今でも訓練を欠かしていない証である、あの頃と同じ体型。

俺は知っている。こいつは嘘をつく時に妙に明るく喋ることを。

言うべき言葉は何も無い。唯、それでも出てくる言葉が一つ。

「そいつは…残念だ…掛け値無く。」

なのに、こっちの気持ちも知らずアーミテジは言う。声はやっぱり陽気だが…

「なぁに…何時かまた見せてやる…今だって短時間ならできるんだしな。ただ中々高価なんでなこの左手は。」

その言葉は、嘘じゃない。こいつはやるといったことはどんな無茶でもやってきた…よく知っていることだ。

そういう男なんだ。こいつは。

 

「はーい、出来たわよ。ウフフ、凄いイメージ変わったでしょ…これなら前の貴方を知ってる人でもだーれも解んないわ。」

 

人が色々浸っている時にその気分をぶち壊すオカマ言葉のヘアドレッサー。

わざわざ気を立てるわけじゃないが…座り心地の悪かった椅子から解放され、俺は立ち上がった。

肩が酷くこったような気がするがそれよりも頭のほうが重い。

アーミテジのほうを向き直り、俺は僅かに微笑みつつ、言った

「ああ、そうだな…その日を楽しみにしておこう。」

そしてアーミテジも同じ表情を…しなかった。

何故だかこちらを見た瞬間いきなり噴き出しやがった。

何かがおかしい。

より一層アーミテジは笑って…今にもトレードマークのサングラスがズレ落ちそうな勢いだ。

笑っているというよりは…むしろ苦しいほど、腹を抱えて。

「…たのむから、こっちを、正面を向かないでくれ…俺の腹はそんなに頑丈じゃないんだ…」

苦しげに掠れ掠れの声が異常な笑みを象る口先から漏れる。

一体なんだって言うんだ。

俺は理解不能だった。そこまで笑う要素が一体今までどこにあったというんだか、そいつが解らない。

けれどヘアドレッサーに鏡を渡されてやっとそれに気付いたんだ。

「これが生まれ変わった貴方。どう、とってもステキでしょ。」

そう、鏡を覗いた瞬間囁かれる声。

 

耳元で呟かれたその言葉を聞くより前に視覚でそれを確認し、俺の思考の枠組み(パラダイム)が何らかの音を立てて派手に壊れたのが解った。

 

自分の頭の体積がとってもビックサイズ。

割と大きな鏡にも関わらずそこに映る自分の鼻を中心とし、胸まで映している像だが髪の毛の全体像を捕らえることは不可能だった。

そして数度、鏡の角度を変えながらその全容を何とか確認する。

丸いんだ、それが。とっても大きく。

そいつは…頭に乗っているそれは“漆黒の綿が塊になっている”ように思えた。

俺はゆっくりと聞いた。

自分でも驚くほど、酷くゆっくりと。

「…おい、この髪型の名称を聞かせてくれないか…はっきりと今聞いておきたい。」

そう、この位置で聞いておきたかった。

今だ苦しげな笑い声を漏らすアーミテジの視界に収まるであろう俺とヘアドレッサーの距離で。

そしてコイツは…ニューマンのこの男は俺の人生でもっともショッキングな言葉を吐きやがったんだ。

そいつはもう、さらりと。滑り挿れるように。

「アフロ・ヘアーよ。ああ、とってもステキ。ソウルを感じるわ…」

自分の仕事に満足したのか陶酔する。

アーミテジの笑い声がより一層爆発する。

そんな状況で俺が一体何をできたかって?

確かに思考じゃあ何も行動は考えられなかったさ。

けど驚いたことに自然に動作をとっていたんだ。以前のハンター時代と同じくらい早い反応で、だ。

ただ、思い切り。手加減無しで横に居る人物の顔面にしっかりと固めた拳を撃ち込んだ。

派手に吹っ飛び、ワゴンに直撃。盛大な音も鳴った。

完全に意識も飛んだらしくピクリとも動かない。つぅ、と彼の鼻から赤い筋が流れているがそんなことお構い無し。

そのあとには今だ笑いを堪えているアーミテジが苦しげに言った。

「いいパンチじゃないか…これなら依頼も上手くいきそうだ…そしてバッチリ似合ってるぞ。」

まったく、冗談っぽく言ってくれる。

頼むからこの髪型は冗談であれ、とこっちは願っているというのに。

 

 

 

願いはどうやら神様(いるとすればだが)に聞き取られなかったらしく、結局俺はこの髪型でパイオニア2に乗船することとなった。

勿論抵抗はしたさ。

だがどうやら時間が無いらしく直ぐに俺はパイオニア2へ乗船する為にここから出なければならなかった。

旅の支度も俺のセンチメンタルな気持ちを無視してばっちり手配してあった。

必要なものは一式。生活に関してはこれで十分文句は無い。

あまり使うことの無さそうな枕だって俺がお気に入りだったソバガラの枕だ。なんて気が利いてるんだか。

ただ支給されたものについて文句を言わなかったわけじゃない。

「おい、なんだってセイバーとフレーム…素のマグだけなんだ…せめてブレイカーくらい用意しておいてくれ。」

セイバーのフォトンを出したり、引っ込めたり。

アーミテジを横目で見ながら俺は本音を吐いた。

けど奴はなんとも普通に答えてくれた。とんでもなく普通の口調と説明で。

「今のお前さんにはそいつで十分じゃないか。それにパイオニア2では軍部だって大した武装が出来ないんだ。」

セイバーのフォトンを出したり、引っ込めたり。

安全が確認されたためのご英断らしく、データを見ても実装兵器は驚くほど少ない。

俺はそのデータを見て思った。

こいつはきっと面倒なことが起こるだろう、と。

力の無いものが厄介ごとに巻き込まれた時にどうなるか。そしてその厄介ごとはそいつらのことなど考えずにやってくること。

それが常。お約束。そしてハンターズ全てが共有する唯一の思想だ。

だが、それをお偉方は解らないと言うのもまた一つの常だということも忘れてはいけない。

とりあえずは納得するしかないその状況に一つ頷き…次に最も大切なものを渡される。

アーミテジは端末を見せそこに映される個人IDを見せる。

見る限り正式(ノーブル)と思えるほどよく出来た代物だ。しっかりと生体識別ナンバーまで登録されている。

ただ一つ可笑しな点があるとすれば名前とハンターズIDが空欄であること。

「お前のIDだ。名前を決めろ。代理人の俺の名義でパイオニア2のギルドには申請してあるがもうそろそろアンタのIDも正式登録しないと色々バレちまう。」

セイバーのフォトンを出したり、引っ込めたり。

どうやら偽装をあちらこちらに仕掛けているらしい。それだけ手が込んでいるのか、或いはパイオニア2の乗船者管理が甘いのか。

なんにしても速く決めろと言っているのだ。

以前の仮の名前も本名も当然NGだ。だからといって都合良く使われていた“ダブル・ジョーカー”の名前も却下だ。

何のためにアフロにまでされたか解らなくなる。

思案が煮詰まる。そういうときは冗談の一つでも言うのが礼儀だと言わんばかりに軽く俺は言ったんだ。

「そうだな…じゃあ、Mr.D−Jでどうだ。」

安直過ぎて笑える名前だろ?

そう続けるつもりだったのに、こいつとくればそれはもう恐ろしく手際良く、とてもスピーディに…

「了解(イエッサー)、申請(アプリケイション)…完了(コンプリーテッド)だ。」

セイバーのフォトンを出したり、引っ込めたり…そのスイッチを弄る指がピタリと止まった。硬直。

俺は思わず声を上げた。そう、思わず恥ずかしいくらいに。

「おい、幾らなんでもソイツはないだろ。このアタマでそんな名前にして見やがれ、どうなるかぐらいその軽量型の頭でも考えつくだろ。」

幸い周りに誰も居なかったのが救い。喚き散らしても向かい合う男が肩を竦めて意地悪そうに笑うだけだ。

「いい名前じゃないか。素性もバレなそうだしな」

アーミテジの唇の端が釣り上がるのを見て俺は悟った。

こいつは間違い無く確信犯だ、と。

今更気付く自分に軽い失望感を憶えるがおかげで諦めもつき始めた。

「ディスクジョッキーにでも思われろって言うのか…大体、そんなふざけた名前でIDなんて申請できるのかよ…」

最後の抵抗。心底信じられない、信じたくないこの状況をまだ否定したい気持ちは残っていた。

けれどアーミテジは言う。とても軽く言うものだから本当にそうなのか今だ信じ難いが。

「ああ、けれど実際に、ほら。それが出来ちまったんだな、これが。」

端末から見える表にはしっかりとM.D−Jと表示され、すでにハンターズIDまで確定している。

水色のハンターズIDと名前を交互に見比べながら…数度、見返して俺はやっと事態は既に修正不可能だと理解した。

「なんてこった…冗談は頭だけにしてくれ…」

ぼやき、どうしようもない事を重ねて思い知らされる。

考えても見ろ、これから新米ハンターとしてギルドで仕事を請負ってその度に同業者、或いは依頼者(クライアント)から頭で弄られ、名前で人物性を勘違いされるんだ。

まさにここ一日で俺は独房で一生を過ごす筈だった元一流の裏社会の狩人から、これ存在全てが冗談のような新米ハンターになったのだ。

これは間違い無く人生最大の革命だ。最悪に性質の悪い革命。

どこかにカメラと札を持った派手な服を着た人間がいるだろうと探したくなる。

そんな気持ちを窺い知ることが出来るくせにそれに気付かない顔でアーミテジは憎たらしく言う。

「さぁ、これで準備は完了だ。早く行かないと船に乗り遅れるぜ、Mr.DJ。」

眼をこの通路の先の船乗り場に向ける。

ここでアーミテジとはお別れだ。

移民が目的であるであるパイオニア2に乗り込むのだ、母星に帰る予定は無いといっていい。

今日一日だけでも、先ほどの数分のやり取りだけでも色々言いたいことはあるけれど今はそれを口にすることは出来ない。

何故なら“イイ男”は別れ際には何一つ愚痴や文句を言わないのが“お約束”で、それを俺たちは理解しているからだ。

一つ、笑みを。何一つ目立った特徴の無い、有り触れた表情をアーミテジに向け、俺は荷物を持って通路を進んだ。

そのまま、真っ直ぐ…止まることは…

 

「おい、こいつも持っていきな。俺からの餞別だ。」

 

お約束を破って奴は俺の足を止め、振り返った瞬間…それは投げつけられた。

受け取ったものは二つだ。

一つはアーミテジのシンボル。彼が愛用している古いブランドのサングラス。

もう一つは…懐かしい、トランプのジョーカーを模したデザインのプレートが二枚ついたドックタグ。

自分がバックグラウンド・ハンター時代に着けていたものと全く同じ物だ。

「おい…こいつは…ドックタグは有り難いがサングラスは…お前のアイデンティを奪っちまうだろ。」

俺がサングラスを投げ返そうと動作を始める前にアーミテジは言った。

その声は彼らしい音調を保ち、しっかりと力強かった。

「いいよ、もっていけ。そのサングラスにも飽きたしな。ボーナスで“お熱いとこ(ホット・ブランド)”の新作を買うさ。」

陽気な声。白いこの空間。響く声は俺を停滞から連れ戻した者の声。

そして、共に血生臭く日当たりの悪い世界を駆け抜けた戦友…相棒。

 

 

「今の俺はお前の横には立てない。だからそいつを持っていきな。お守りだ。着けとけ、損はさせないぜ。」

 

「お守りねぇ…効果覿面か。」

 

「ああ、勿論だとも。」

 

 

見せるのは先ほどまでの確信犯の笑顔…けど、俺はあいつの言葉を信じた。

俺はサングラスを受け取ることにした。壊れてしまわない程度に軽く握る。

そして本当に、最後の言葉を交わそうと俺が唇を動かしかけると…奴はまた俺より先にこの通路に声を響かせた。

「依頼、しっかりやれよ…お前が思っているよりこれから起こることは温くないぞ。」

それが代理人(エージェント)としての立場で企業秘密を明かさぬまま言える、最良の気遣いを表す言葉であることを俺は知っていた。

サングラスに隠れていた、あまり見る機会の無かった青い淵と深い底を見せる瞳を覗く。

暗黙のルールを理解しえるならそれ以上喋らせるわけにはいかない。

ドッグタグを我ながら器用に首に着け…あの頃、アーミテジと一緒に依頼を請け負う時に見せた顔を見せる。

成功を…生還を誓う、口元だけの笑い。

「ああ、俺を誰だと思ってるんだ…お前の良く知っている“二枚の最強札<ダブル・ジョーカー>”だぜ。」

その時、アイツは俺の言葉を鼻で笑った。

気に触る仕草。けれど怒る気など出るわけが無い。

「おいおい、今は違うだろ…弱体化した体でその名前は使えないだろ。それにお前は昔みたく若くないんだ。少しは言葉使いを落ち着けろよ。」

自分のことを棚に上げてアーミテジはそんな言葉を俺にかけた。

アイツが言うことは一理ある。正直自分の確かな年齢さえ良く解らないが三十前後であることは確かだ。

老いてはいないが若さ溢れるとも言える年齢じゃない。

「ああ、そうだな…それでは…」

そう、俺の若さだけの時代は独房の中で終わった。

ここからが新たな出発だ。

俺は…いや、“私”は彼から受け取ったサングラスを掛け、言葉を…別れの言葉を口にする。

気分の良い…最高の口調で

 

「私に…D−Jにお任せだ。」

 

アーミテジもまた…同じく

 

「ああ、いってきな。お前さんならどんな依頼でもノーブロブレムだ。」

 

笑う。お互い感情が出ないが心底、爽快だ。

私は今度こそ、二度と彼にその正面を向けることが無かった。

また彼ももう呼び止めも、それ以上見送りもしなかった。

真っ直ぐと歩く。堅い床、真新しい靴が大きな歩幅で真っ直ぐ。

背中から携帯通信機での会話が聞こえる。すでに代理人(エージェント)は別の仕事を始めたようだ。

お互いの道は違えた。

また交わることは有るかもしれないし、二度と無いかもしれない。

けれど、何時までも…きっと死ぬまで彼も私もそれでも良かったと思うだろう。

互いに…俺は望んじゃあいなかったが奴は俺のアフロになった姿を。俺はアイツがサングラスで隠す普段見せたがらない眼を最後に見たんだ。

記憶に残りやすい別れだったから。

 

そして、私の新たな出発を彼らしく祝ってくれたのだから。

 

 

 

 

 

(終…いや…出発、依頼開始。数多の出会いへ。)

 

<戯言>

まずはこのような駄文を最後まで見てくださって本当に有難うございました。

伯爵の方がウケいいのですがこんなキャラも居ます(笑)まぁ、キャラを解っていただくのには一番良いかなと提出させていただきました。

この話の内容はラグオルに付く前のもので、今は高いレベルになって装備も充実。実質の戦闘能力的には持ちキャラでは一番強いです。

ロールプレイする?の皆様の目に自分の駄作を出してしまったわけですが…正直一般受けしない話だなと自分でも確信しております(^^;)

なんと言ってもアフロですから…でもアフロ好きなのですよね。

1stキャラのメイクの時に発売前にはカッコイイキャラを作ろうと考えていたのです。かっこいい髪型があるなとアッシュ君やら逆毛、一本括りなんか確かにカッコよかったのですが一番最後にカーソルを合わせた瞬間…アフロの魅力に取り付かれて(笑)

上の通りシリアスで見た目の通り、ノリは良く。戦闘経験豊富なプロと大人の魅力の有る人物…という設定を考えながらでオンラインデビュー。

けれど上記のような設定も慣れていないプレイではとても苦労して仲間に助けら中々見せることは出来なかったのですが(^^;)

今となってはそうではないですが発売当初はアフロもやはり珍しかったらしく、「アフロ〜アフロ〜」と周りを取り囲まれたことも。

本文中にも有る「D−Jにお任せだ」と言う台詞はショートカットにあり、決め台詞の一つなのですが中々言う場面は無いです(苦笑)

アフロ絡みの話は今ではいい思い出でになってしまいました(笑)

本文に登場しているアーミテジは完全にこの話を作るために出てきたキャラです。中々重い設定を覗かせますが調子の良い奴に成りました…どうでしょうか。

もしよろしければこの駄文の感想を書いて頂けると嬉しいです。

 

それでは、長文、乱文失礼いたしました。そしてここまで読んでくださった方に心から感謝します。

ご縁があればパイオニア2で、ラグオルでお会いしましょう。

 

2001052720011220 トリックスター