「激写っ!!あ、待って、美しいお嬢さ〜ん」
自称フォトグラファー(写真家)ロボのレイキャスト、セカイが、
ギルドのロビーを歩くレイキャシールを勝手に写真に撮り、ひじ鉄
をくらっている。
それにちっとも懲りないのか、次なる美女を見つけてはカメラを
向け、すっかり女性ハンターズの非難の的になっていたが、本人は
いたって平気のようだった。
「ふう・・・」
フォニュエールの少女、ミウは、それを横目に、今日何度目かの
ため息をもらす。
そして、ロビーの待ち合い席で、自分の横に座る金色のボディカ
ラーに背の高いヒューキャストの、何故か騎士道を志すユーニスに、
ちらりと目を向ける。
「・・・姫さまを救出するのが、我が永遠の指命。だが、しかし、
「マザー」・・・。何故に思い出せぬ。うぬぬぬ、二兎追う者は一
兎も得ず。騎士として、私はどちらの道をゆけば良いのやら・・・。
「マザー」の調査、姫さまの救出、二つの道・・・」
ブツブツと念仏のように自分の悩みを、とても小声とは言えない
ような音量でつぶやき続けるユーニス。
ミウはもう一度大きくため息をついた。
「やれやれ、なんとかなったね」
おばさんフォマールのルイーズが、カウンターから意気揚々と
ひきあげてきた。
ミウの、ユーニスとは反対側の隣に大儀そうに腰をおろす。
「どうだった?ギルドとの交渉は」
「やっぱりセカイの写真にはロクなのなかったね。わたしらの、遠
足風景みたいなのやら、あいつが美女と思ったロボットのアップの
写真、あいつが美しいと思った部分だけの施設の写真」
「だろうねー」
坑道調査中のセカイを思い出し、ミウは暗くなってしまう。
「でも安心おし。なんとか報酬の3割はもらえるように交渉したか
らね。今回使ったアイテムやら何やらの事を考えたら、なんとか収
支はトントンってところかねえ」
ルイーズはかなり得意げだ。
「タダ働きはまぬがれたのかあ。おばさんの交渉はさすがだねえ。
ボクもう覚悟決めてたのに」
「主婦をなめちゃいけない。こちとら生活がかかってんだよ?マイ
ホーム資金の事も考えなくちゃいけないのに、こんなところで赤字
を出す訳にはいかないからねえ」
かんらかんらと大口を開けて笑う。女は弱し、されど母は強し、
の見本のような女ハンターズだった。
「それよりも、なんか暗いねえ、ミウちゃんは。どうしたんだい?」
「だって・・・」
ミウはいまだに一人つぶやき続けるユーニスと、モデル探しなの
かナンパなのか判断のつかないセカイを見やる。
「今回のメンバーはひどすぎるよ〜〜。いったい誰が、こんなひど
いロボを作るの?マザーとやらなの?ボク、そいつに一言文句言っ
てやりたいよ、もう!」
頬を怒りの余りパンパンに膨らませて、ミウは怒りをあらわにし
ていた。
「おやおや、すっかりおかんむりだねえ」
ルイーズは苦笑しながらも、少し考えてから話し始めた。
「ねえミウちゃん。あんた、ちょっと勘違いしてるようだね。アン
ドロイドってのはね、そんな風に、生まれた時から、決まった性格
や嗜好を持って生まれる訳じゃないんだよ。
確かに最近のは、多少の性格付けがされているのもあるようだけ
ど、それだって基本的な部分だけで、結局は生まれた後から経験す
るさまざまな出来事から影響を受けて、性格にしろ趣味にしろつく
られるんだよ」
「??、よくわかんないよ?」
ミウはチンプンカンプン、といった顔をする。
「つまりね、結局は人間と同じってことさね。
生まれたばかりの赤ん坊が、真っ白で、純粋な魂を持っているよ
うにね。まだ、我が侭でも意地悪でも優しくもなんともない。
セカイは製造直後から写真を撮りまくるロボじゃなかったろうさ。
ユニだって、最初から騎士道なんて言ってなかった筈だよ。
人間の赤ん坊がカメラを撮りたがったり、騎士道を説いてまわっ
りはしないだろう?それと同じさね。
聞いたことないかい?
ユニが、過去の騎士の文献を読みあさったって話を」
「そういえば、前に聞いたことあるよ」
ミウは以前の事を思い出して答えた。
「ユニは多分、ハンターで、剣士である事から、その理想を騎士に
求めたんだろうね。けど、どうも、ファンタジーかなんかまで読ん
だんじゃないかいねえ、あの勘違いぶりは。(苦笑)
セカイは、もしかしたらどっかの芸術家ぶった人間の助手でもし
てたんじゃないのかい?それも女好きの。
ともかくね、そうした経験を積み重ねて、アンドロイドの心、魂
が生まれて、育っていく。わたしゃ、そう思ってるけどね」
「メカにこころ?」
ミウは半信半疑に問い返す。
「そうさね。だからこそ、あいつらはあんなに個性的なのさ。
人間にだっていろいろいるだろ?変に筋肉ムキムキの身体してい
るくせにオカマしてるのとか、チビで子供のくせにいきがってデカ
イ剣を振り回してる生意気坊主、パワードスーツ好きの特撮かぶれ
とかさ」
そこでルイーズは無器用にウィンクしてみせた。
「ほんとにいろいろいるんだよ」
ルイーズが自分の息子達を例にあげたので、それはひどく分かり
やすく面白い例えで、ミウは思わず吹き出してしまった。
「そ、そうだよね・・・。ぷぷぷっ、クスクス。
いろいろいるよね、ほんとに」
大喜びのミウを見て、ルイーズも顔をほころばす。
「アンドロイドにもいろいろいる。あいつらみたいに個性的なのも
無個性なのも。そういうのも面白いもんだよ。
わたしも長年ハンターズをやって、しばらく休んでから復帰して
きたけど、それこそいろん奴と組んだよ。アンドロイドに限らず、
ヒューマン、ニューマン、みんな個性的な奴等だったよ・・・」
ルイーズの目が、遠き過去を懐かしむように細められる。
経験豊富な、ベテランハンターズの顔がそこにはあった。
「そうしたのと、お互いの足りない部分を補い、助け合っていく。
それが、ハンターズってもんじゃないのかい?」
ルイーズが、優しくミウに微笑みかける。
「ともかく、あんたも男の子なんだから、気持ちを大きくもって、
優しく、もっとおおらかに接してやんな!」
バシッとミウの背中を叩き、説教をきれいに締めくくったつもり
だったルイーズだったが、最後が余計だった。
「・・・・。ルイーズおばさん、ボク、女の子なんだけど・・・」
ミウがジト目でルイーズをにらむ。
ルイーズは真面目にビックリして、一瞬言葉を失ってしまった。
「あ、え、う・・・。
そ、そうなのかい?あんまりやんちゃな子だから、わたしゃてっ
きり可愛い男の子だと・・・。
あ、いや、その、あんまり胸もお尻もな・・・・。そ、そうじゃ
なくて、いやだね、冗談に決まってるだろう?本気にしたのかい?
ミウちゃんは」(汗)
ルイーズが白々しく笑う。ミウのジト目は止まらない。
「さ、さてと。そろそろうちの馬鹿どもが腹をすかせる時間だね。
おばさんは先に帰るから、後は任せたよ」
そう言うとルイーズは、その太り気味の身体からは想像もつかな
ような素早さで、文字どおりその場を逃げ出してしまった。
「あーっ!逃げるなんて、ひきょーだぞ!もう!」
一瞬ルイーズを追いかけようかと立ち上がりかけたミウだが、思
い直してまた椅子に腰掛けた。
「優しく、おおらかに・・・、かぁ」
ルイーズの言葉を思い返して、ひとり呟く。
ルイーズの話してくれた内容は、それなりにミウの心にうったえ
かけるものがあったようだ。
(そう、そうだよね。ロボだから変だとか、ニューマンだからいい
とか、そんなの変だよね。さべつっぽい考えだったかも)
ミウの中で、確かに何かが変わったようだった。
ちょっとだけ、自分が優しい気持ちになれたような気がするミウ
だった。
その手始めに、ユーニスの悩みに協力しようかと、隣に顔を向け
たミウだったのだが、
「ねえ、ユニ、って、あれ?いない・・・」
ついさっきまで隣に座っていた筈の金色のヒューキャストは、そ
こに影も形も見当たらなかった。
ミウが立ち上がって周囲を見回すと、すぐに背の高いユーニスは
見つかった。大柄なセカイと並んで立っていたので、二人の存在を
無視するほうが難しかっただろう。
その二人の前に、ミウの知り合いの小柄な白いレイキャシール、
SRK398が立っていて、なにやら困り顔だった。
「おお、ついに見つけてしまった!我が理想の姫君を!!そなたこ
そ、私の待ち望んでいた白きユリ。
どうか、私を、姫のナイトと呼んでくだされ!」
「ちょっと割り込まないでよー。
今この娘と専属モデルとして契約してもらう話をしてたのにー」
「だまれ、下郎!この姫君は、お主のようなやからが口を聞けるよ
うな方ではないわ。
さあ、姫様。我が剣と忠誠を受けとってくだされ。私は生涯、
姫様のたった一人のナイトとなりましょうぞ」
「はい、こっち向いて、あっち向いて、そっち向いて。う〜〜ん、
いい表情。はい、笑って、怒って、泣いてー。そこでちょっとポー
ズとってみてー」
続けざまに二人から飛ぶ言葉の雨あられ。
SRK398は泣きそうな顔をしていた。
「コ、コマリマス。ワタシ、コレカラオシゴトガ・・・」
懸命に二人から逃げようとしていたが、肝心のロボコンビはまる
で人の話を聞いてはいなかった。
「私は、姫様のためなら死ねる、断言できますぞ!」
「君は芸術的価値が高いよー。今度ロケに行こーか?森、洞窟、坑
道?どこがいいかなー?」
その背後でミウが、肩を震わせて、ワナワナとして立ち尽くして
いた。もはや先程までの反省も、どこか遥か彼方の遠くのほうに、
勢いよく吹き飛んでしまった。
「こーの馬鹿ロボコンビ!なに女の子を困らせてんだーっ!!」
ミウのドロップキックが、二体のアンドロイドの後頭部に、見事
なまでに炸裂したのは言うまでもない事でした。
チャンチャン♪♪
(おしまい)