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【春よ来ーい。はーやくこーい】

挿絵:うるるん(敬称略)

 人手不足だ。
 危険な任務にたびたび挑まなければならないハンターズは慢性的
に人手不足である。
 となれば、新人の育成はハンターズの存在そのものを支える重要
な仕事である。
 そして、今日も今日とてベテランや中級のハンター達に新人育成
の依頼が舞い込むのである。

 一人の女性ハンターが想い人のことを思い出す。
 優しい笑顔、自分を守ってくれるたくましい背中。しなやかな筋
肉を纏い自分を抱き留めてくれる腕。
 わずかに彼女は頬を染める。そして小さくため息をついた。
 彼女の目の前には、想い人によくにた雰囲気の少女が行儀よくた
たずんでいる。
 「どうかしたのですか教官?」
 教官と呼ばれた女性。黒いボディスーツに赤い髪の映えるハニュ
エールのサクラは慌てて首を振り、ぱたぱたと顔の前で両手を振る。
 「な、なんでもないわ。それより、そろそろ時間よね」
 話をそらそうとしてサクラが聞くと、フォマールの少女、フロー
ラは手元の時計を確認する。
 「あと、2分ほどですわ〜」
 「そう、ありがとうね」
 答えてサクラは胸中で祈る。
 (お願いだから早く来てね。リリちゃん、キュージュさん)
 ちらりとフローラのほうに視線を向ける。彼女は優雅にその場に
たたずんでいる。オイスターホワイトの布地にラヴェンダーで刺繍
されたローブと帽子がよく似合っている。
 「シオンったら・・・ 何でこんな仕事を・・・」
 サクラは小さく、小さくつぶやく。だがフローラはそれを聞き逃
さなかった。いや、聞き逃せるはずがないのだ。大切な、とても大
切な兄様の事なのだから。
 「教官! 兄様(あにさま)を呼び捨てにしないでください!!」

 まだ幼さの残る表情で怒るフローラの声にびくりと背筋を伸ばす
サクラは、慌てて謝る。
 「えっと、そうね。ごめんなさいね。シオンさんよね」
 大慌てで取り繕う自分がちょっぴり悲しくなる。まさか付き合っ
ている男性の、実の妹にここまでやきもちを焼かれるとは、想像も
していなかった。
 しかも今日一日、新人ハンターであるフローラの実戦訓練に、サ
クラは付き合わなければならないのだ。
 「おまたせー! 間に合ったよね!」
 そこに一人の少女が元気に走りこんでくる。濃い目の青い髪を後
ろで二つにくくり、その髪の色に合わせた青い衣装のハニュエール、
リリは息を切らせて、サクラとフローラの前で止まる。
 「だいぶ息があがってるな」
 その後ろから、これまた青で統一された服装のフォニュームがや
ってきて息切れしてるリリに並ぶ。
 「こっちは入院生活でなまってるんだってば!」
 げしっと軽く蹴りを入れて、隣に並んだフォニュームのキュージ
ュを黙らせておいて、リリは呼吸を整えると笑顔でサクラとフロー
ラに握手を求める。
 「お久しぶりサクラさん! それと今日はよろしくね新人さん!」
 明るいリリの表情とは裏腹に彼女の呼吸はいまだに落ち着いてい
ない。今日は新人のフローラの実戦訓練の付き添いとして、中級に
属するハンターであるサクラ、リリ、キュージュが同行する事にな
っているのだが、この様子では病み上がりのリリはあまり頼りにで
きそうにない。
 「だいじょうぶなの? 病み上がりで」
 任務ではなく友人としてサクラはリリに尋ねる。
 「これ以上病院なんかにいたら腐っちゃうしね!」
 「ほんとうに、体のほうは大丈夫なんですか?」
 フローラまでが心配げに尋ねてくるのでリリは思わずがっくりと
肩を落とす。
 「あうー。新人にまで心配されるなんてぇぇぇ」
 なんだかちょっぴり悲しくて涙するリリの頭に、ぽふっと手を乗
せてキュージュはサクラに微笑む。
 「ということで。おれとサクラで二人のサポートをしつつ今回は
実戦訓練をしなきゃならないな」
 「ええ、そうね。わかったわ」
 同意するサクラとちがい、キュージュの大きめの掌の下でリリは
口を尖らせる。
 「なによ。あんた男なんだからみんなを守りなさいよ」
 距離が近すぎるので今度は肘鉄を食らわせてリリは一方的に言い
放つ。キュージュとは身長差があるのでその一撃は見事に死角であ
ったらしく、リリが向き直った時にはキュージュはすでにうずくま
っていた。
 「ああぁぁぁぁ! 仲良くしてぇーー!」
 今回のリーダーであるサクラの悲痛な叫びがギルドに響き渡った。
 サクラの苦労は始まったばかりである・・・。

 森・・・
 セントラルドームを中心に広大な面積にわたって続く森林はラグ
オルでは比較的安全な方である。最もあくまで比較論ではあるが。
 その森林でフローラの実戦訓練は行われていた。もはやSクラス
に並ぶ実力と評されるハンター、シオンの妹だけあってフローラは
危なげなく戦いの中で行動していた。
 地中から現れたブーマと名づけられた原生動物達を殲滅して、一
行は辺りの気配を確認する。
 「しっかし・・・」
 リリは真剣な顔をしてフローラを見つめる。じーっと真正面から
見つめられてフローラはたじろいでいる。
 「フローラって気のせいかサクラさんに厳しくない?」
 とくに深く考えたわけではなく肌で感じたのであろう疑問を、こ
れまたまったく単刀直入に問われてフローラは、逆に慌ててしまう。
 「きょ、教官様に対してくだけた口調を使うわけにはいきません
からですわ!」
 ((さま・・・ って・・・))
 言われたサクラと聞いていたキュージュは同時に苦笑いを浮かべる。
 「そう?」「そうですわ〜」
 答えるフローラをもういちどまじまじと見つめてリリはぽっんと
手を打つ。
 「そっか、さっきからずーっとひっかかってたんだけど、フロー
ラってシオンさんに似てる!」
 突然話題の内容を変えたにも関わらず、フローラは驚くと言うよ
りむしろ嬉しそうに笑顔を見せる。
 「お兄様を知っていらっしゃるの? シオン兄様は、フローラの
自慢の兄様ですわ〜」
 「へー! なるほど、似てる似てる!」
 リリはわざわざちょろちょろと立ち位置を変えて、色々な角度か
らフローラを眺めては納得している。
 「それにしても、兄様って有名ですの?」
 「有名よー! 腕も立つしね。ラケルさんとかに並ぶんじゃないかなっ」
 これまた腕の立つハンターズの一人と、自慢の兄が同等に扱われ
たのが嬉しいのか、フローラは楽しそうにリリとシオンやラケルの
話で盛り上がっている。
 その様子を見ながらキュージュは一つの可能性に思い当たって、
サクラに小声で問う。
 「フローラがサクラに対して厳しいのはシオンが原因か?」
 「う、うん。彼女お兄ちゃんっ子だから・・・」
 複雑な表情でうなずくサクラにキュージュも言葉が思いつかない。

 「そーいえばサクラさん! あの噂ってほんと?」
 あいもかわらずリリは突然、会話をサクラに振る。
 「最近、サクラさんとシオンさんがつきあっ もがむが!」
 リリは途中で言葉を無理矢理飲み込むことになる。キュージュが
口をふさいだのだ。しかもキュージュは「ちょっと、きてくれ」と
リリに耳打ちするとずるずると、木陰へ引っ張っていく。
 いったいなんなのよ。ことと次第によってはただじゃおかないわ
よ。と、雄弁に語る若葉色のリリの瞳にどう切り出そうかと戸惑っ
た間に、リリの方が口を開く。たった一言、簡潔に。
 「おそうなよ」
 「するか!」
 全身に脱力感を感じながらキュージュはサクラ達の方を視線で
示す。向こうでは噂について問いただすフローラを、なんとかごま
かそうとサクラが四苦八苦している。
 「ようするにだ。フローラはまだ子供で、自慢のお兄さんをとら
れるのが我慢できないんだ。あんまり刺激するようなことは言うなよ」
 「ブラコンね」
 「はっきり言うなおまえは」
 んふふふふ。リリは瞳を輝かせて小さく笑う。キュージュはその
瞳の光にミウーレンと同じものを感じ取る。ようするに、いたずら
心に火がついたのだ。
 「止められないだろうから止めないが、ほどほどにしとけよ」
 キュージュはこめかみを押さえて言う。結局、忠告しようがする
まいが結果は同じだったというわけだ。
 「んふ。キュージュのそういうとこ好きよ」
 かわいく口のところに両こぶしをよせて笑顔を向けるリリに一抹
の不安を感じつつも、つい微笑して「俺もだよ」と小さく答える。
 リリは聞いているのかいないのか、何とか話題をそらすことの出
来たサクラ達の方にそそくさと走っていく。
 (あー、びっくりした。急に言わないでよ)
 顔が熱くなるのを感じてリリは小さく深呼吸した。

 戦いに慣れてきた頃合いを見計らっていたのだろう。
 「そ・う・い・え・ば〜」
 噂話に興じる女学生のごとく、にこにこ顔で突然リリはサクラに
声をかける。
 「サクラのマグってお揃いだよね。シ・オ・ン・と」
 「や、やめてー」
 サクラはブーマの群を長刀で一気になぎ払いながら、サクラが抗
議混じりの哀願の悲鳴を上げる。
 「きー! 忘れかけていましたのに」

 フローラは行き場のない怒りを、火の玉に変えて目の前に現れた
ジゴブーマにぶつける。
 「だめだめ。冷静に冷静に〜。精神修行だよ♪」
 「は、はい! そ、そうですわね・・・」
 リリのもっともだが無責任な発言にうなずくフローラと、それを
はらはらしながら見守るサクラ。
 「気の毒に・・・」
 キュージュはサクラの心労を推し量って小さくつぶやいていた。
 「それにしてもそんなにいやなの? お兄ちゃんをとられるの?」
 あらかた片付け終わってリリが何気なく聞いたとたんフローラは
厳しい視線ではっきりと「えぇ!」とうなずく。
 「う、うんうん。それは当然よねぇ」
 サクラがフォローするように言うがフローラは聞いていいようだった。
 (だって、本当の私を見せられるのなんて兄様だけ・・・)
 「やれやれ・・・」
 一度シオンに直接、サクラとフローラのことを話してやった方が
いいかもしれないな。キュージュは一人、そう考える。
 「とにかく、もうからかうのはやめるね。根が深そうだし、いつ
かサクラさんがお姉さんとして認めてもらえるのが、遅くなるのは
不本意だし」
 「うん、がんばるから、そっちもがんばってね」
 謝られたサクラは意味ありげなウインクをしてリリの肩をぽんと
たたく。
 「そ、そんな・・・ ちが・・・ わないけど」
 否定しようとして、サクラの優しげな瞳に負けて、リリは彼女の
前でだけ、こっそりと肯定することにした。

 森での実戦訓練は順調に進んで進んでいく。あいにく降り出した
雨の中でもフローラは落ち着いた様子で、その才能の片鱗を見せていた。
 だが、すべてがすべて順調と言うわけでもない。やっぱりサクラ
とフローラの関係はどことなくぎこちなく、キュージュとリリはつ
まらないことで意地を張る。
 そんなわけで、戦闘は軽々とこなしていたサクラ達一行だが、途
中で道を間違えたことには気づいていなかった。
 「二手に分かれて探す?」
 小一時間ほど前に通ってきた転送装置を前にリリはため息混じり
に言う。
 「わかったわ」
 サクラが答えて、彼女たちはいったん二手に分かれることにした。
サクラ・フローラ編 キュージュ・リリ編



















































 【合流編】

 セントラルドームの外壁にはいくつかの地熱エネルギー装置の整
備室への大型転送装置が存在する。セントラルドームは環境への影
響を最小限にするために、地下のマグマの熱を利用している。その
地下施設のいくつかに、現在はドラゴンと名付けられた飛竜が発見
されている。
 「今日の締めくくりだな」
 転送装置を目の前にキュージュが言うとサクラ、リリ、フローラ
が頷く。
 「大丈夫?」
 その名の通り炎を吐き出す飛竜との戦いを心配してリリは小声で
キュージュに訪ねる。
 「大丈夫さ。覚悟はしてきてる」
 答えるキュージュにリリはまた笑顔を向ける。
 「ま、なんかあったらわたしが守ったげるからね。あはは」
 いたずらっぽく笑って、リリはサクラ達の方に走る。ちょうどフ
ローラがセイバーをマシンガンへと持ちかえたところだ。
 「これも兄様に習ったのですわ」
 全員に強化魔法をかけてフローラはにこりと微笑む。四人は頷き
あうと転送装置へと飛び込んだ。


 「キュージュ〜。またあんた人に心配かけてくれたわねぇ〜」
 打ち倒されたドラゴンの脇でリリがキュージュに詰め寄る。
 「ほんとにどうなることかと思いましたわ〜」
 フローラも心底心配そうに二人の方を見る。キュージュはついさ
っきの戦いの中、ドラゴンにはじき飛ばされて、一瞬意識を失いか
けたのだ。
 すまなかった。そう言いかけたキュージュの胸にリリの頭が預け
られる。
 「ばか・・・・・」
 キュージュはそっとそれを抱きとめ小さく謝罪した。小さな沈黙
が流れる。
 サクラは困った末にキュージュ達にはかまわずにフローラをほめる。
 「さすがね。フローラ」
 「いえ、兄様がゆずってくださったマグが、守ってくれたんです」
 「そのマグがあなたを慕っていることも、あなたを守っているこ
とも、あなた自身の実力ゆえよ。お兄さんに自慢できるわね」
 サクラの言葉にフローラは小さく頷く。その後ろで照れ隠しにボ
ディブローをもらってうずくまる男がいたのだが、それにはサクラ
もフローラも気づかないことにしたのだった。


 「結局あの二人は仲良くなれたのかね」
 フライパンを巧みに操り、具を素早くかき混ぜながらキュージュ
はつぶやく。
 「うーん。どうなんだろねー。今度シオンさんに会わせてもらっ
たら聞いてみるわ」
 安物のソファに座って料理の完成を待つリリは、フローラにさっ
きシオンと会わせてもらう約束をしたのを思い出して上機嫌だ。ま
るで自分の部屋のようにくつろいでいる。

 「うまくいくといいんだけどな」
 調味料を加えながらキュージュはつぶやく。自分でつぶやいた言
葉がサクラ達のことを言ったのと同時に、自分達のことをも言った
気がしてつい苦笑する。
 「ねー。まだ? お腹すいたんだけど〜」
 それを知ってか知らずかリリは無邪気に笑っていた。



<注釈>
★フォースの服
 えー勝手に作った設定です。ニューマンのフォースには地味な服装がないので、そういう理由をつけました。

★一言 しばらく前にあそんだなりきりプレイを多少改造してつくったSSです。実際はそのときのキュージュは1レベルからだったんですが、中級ハンターズとして物語りは書きました。
 で、出演者の方、修正をお申し出ください。問題がなければ、RPする? のほうに投稿しますので。

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